2011/02/06

マリア・シュナイダー /『さすらいの二人』

ダヴィッドは記者としての自分の人生に深刻に行き詰まりを感じている。。。
アフリカの小さなホテルでたまたま隣の部屋に泊まったロバートソンと名乗る男は彼に瓜二つだった。。。そして翌日ロバートソンは心臓マヒで死んでしまう。ダヴィッドは互いのパスポートの写真を張りかえ、自分が死んだ事にして、ロバートソンになりすます事を考える。彼になりきるため残された手帳に書いてあるアポイントのために彼はミュンヘンに行くのだが、次第に死んだ本当のロバートソンの仕事は武器の闇取引屋だったことに気がつくのだが、既に彼はやり取りでミスをおかしてしまい、逃亡がはじまる。。。彼は「ダヴィット」を捨てて逃げてみたものの、「ロバートソン」も結局見知らぬ者から追われる立場になってしまう。逃げる彼はバルセロナに辿り着き、そこで「不思議な若い女」に出逢う。。。
彼女は訳も解らないまま彼の逃避行に付き合うことになってしまいます。

白いスポーツカーが並木道の中を走っている。
赤いシーツの後部席に座る彼女。

(彼女) 今、ひとつ質問していい?
(彼)ー いいよ ひとつなら。
(彼女)ー そうたったひとつでいいの
(彼)ー・・・・
(彼女)ー いったい、あなたは何から逃げようとしてるの?
(彼)ー 背を向けて後ろを見てみろよ。






後ろを向いて飛び去る並木道に彼女のすがすがしい笑顔と透き通る眼差しがとても印象的です。
ミケランジェロ・アントニオーニ監督の1975年の作品『さすらいの二人』の一場面ですが、この映画で僕はこの彼女の笑顔が脳裏に焼き付いていてます。原題は『職業 : 記者』ですが邦題はちょいとニュアンスが違いますね。。。
やはりジャック・ニコルソンの演技が素晴らしい! そして相手の女を演じるのはフランスの女優マリア・シュナイダーです。僕はこの映画の中での彼女が一番好きです。
彼女は残念ながらあまり沢山の仕事には恵まれませんでした。その原因はこの作品の三年前の1972年にイタリアのベルトルッチ監督の『ラストタンゴ・イン・パリ』でマルロン・ブランドの相手役を演じたことにあります。見知らぬ中年男とアパルトマンを捜しにきた若い女の肉体だけの関係を描いたもので、封切りされた当時は大スキャンダルとなり、イタリアでは4日間で興行中止になりました。あまりにもインパクトが強すぎたため、以後彼女は普通の役のオファーが来なくなってしまいました。デビューした頃の19歳の彼女には大変な重荷だったそうです。以後ずうっと「ラストタンゴ・イン・パリ」の女優でとしか認識してもらえなかったそうですが、でもルネ・クレマンやジャック・リヴェットのような名監督とも仕事してます。そんな中でこのアントニオーニが描く「不思議な女」が最も彼女を表しているとおもいます。彼女はヒローインにもかかわらず役に名前がありません。主人公ダヴッドは自分から逃げて他者のアイデンティティーを捜すのに、彼女にはアイデンティティーがなくても自由に存在している。。。




彼女の役名がないのは、無論監督の意図的なもので、彼はマリア・シュナイダー自身のミステリアスな存在を描こうとしたのだと思います。そしてこの7年後になる次の映画、彼の最後の長編といえる作品では『或る女の存在証明』を描いています。
1960年の『情事』以来、女性の神秘を描きつづけてきたアントニオーニ。若いマリア・シュナイダーに大俳優ジャック・ニコルソン相手に「名もない女」を演じさせたわけですが、それをすんなり演じきるその彼女の存在感は比類のものです。。。


妥協しないとても素敵な女優さんでしたが、一昨日癌のため58歳で亡くなりました。
冥福を祈ります。






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